判型:四六判(186×132mm)/頁数:258/

定価:2,800円+税/発売:2002月1月20日/発行:株式会社日本カメラ社

飯田鉄『レンズ汎神論』

 1948年東京生まれの飯田鉄は、無類のカメラとレンズのおたくである。しかも単なるおたくではない。世の中に千差万別存在するそれら光学製品の中からその製品に備わった個性、特性をものの見事に引き出す。それは、それらを使って写された写真を見れば一目瞭然である。氏は普段、歴史的建築物や都市環境の撮影を主とし、その卓越した職人芸とも言える技と独特な感性に支えられた作品を発表する第一級の写真家なのである。

 この単行本は月刊誌『日本カメラ』の1993年1月号から毎号5年間つづいた連載をまとめたものである。その都度、撮り下ろされた写真の見事さは言うまでもないが、加えて非凡な文章も味わい深く秀逸である。

 以下、興味をそそられる内容を記した〈目次〉と〈はじめに〉を紹介しておこう。

 

〈目次〉

はじめに

  1. レンズの迷宮から パンケーキレンズの謎/魚眼レンズについて/鋭い蛍石/或る過渡期/FLEXIという試み/シフトの始祖/二つのKの話/非球面反応/デフォーカスの探求/迅速なる焦点調節/柔らかな罠/ズーム比の冒険
  2. レンズ十二夜 撮影業事始め/黄金時代に/トランスフォーマーの牢獄/飛ぶレンズ/ネジの偏在/粋なレンズ/テレモアを買う/マクロ・スイターのほうへ/水の中のレンズ/ソビエトの星/遺留品としての135ミリ/虫メガネ
  3. レンズの海への測鉛 写真の振り子/広角の歩行/ベルテレの果実/Dのズイコー/マクロあるいはマイクロ/手中の神話/セコール+セコール/ジンマーの時代/美術館のフィッシュアイ/銀色の衣装/緑の追跡/ニッコール・トリプレット
  4. レンズの消息 ペンサイズ・マクロ/魔術師の娘/小学生の単玉/沈む鏡胴/大衆のマイヤー/軍艦の名前/グラマラス・ロッコール/特別な広角/コムラーの弁当箱/レンズの作用
  5. 三つのレンズ ありふれていることの非凡/1群2枚で写す遠いけしき/古風な接写
  6. すべてのレンズに神は宿り賜う カールツァイス マクロプラナーT*60ミリ(C)MM/シグマAF24~50ミリF4-5.6UC ZEN/ノクトニッコール58ミリF1.2/スーパーアンギュロンXL58ミリF5.6/マミヤレンズG75ミリF3.5L+オートクローズアップレンズ/ライカ・エルマリートR90ミリF2.8/タムロン28ミリF2.5/オリンパス ズイコー200ミリF5/ミノルタAFレフレックス500ミリF8/キヤノンEF50ミリF1.4USM/コニカヘキサーレンズ35ミリF2/SMCペンタックスAマクロ120ミリF4

レンズの集い─レンズ汎神論その後

あとがき

 

〈はじめに〉

 この世に生まれたレンズの総数がこれまでどのくらいのものになるのか、そしてまた、これから将来どのくらいのレンズ達が生み出されていくのか、およそ想像を絶するものがある。人間の用を足すために、暗い箱の中に何らかの像を結ぶよう工夫され、様々な能力を与えられてきたレンズ達だが、それらには人類と同じような民族性や地域性、果ては銘板に刻まれた製造番号ごとの個性といったものすら、感じられるのである。

 と、少し大袈裟になってしまったけれど、これまでレンズ達とつきあってきたところの、私のこれは正直な感想でもある。あのレンズは良い、あのレンズは悪いと言った判断のほかに、あのレンズの悪さが良いという考え方もあって、人間の好き嫌いは、まったく始末にこまるものだが、生まれ出てきたレンズ達の良い点、美点を見つけだす努力は続けていきたいと思う。そして一言つぶやくのである。すべてのレンズに神は(あるいは各々の神が)宿り賜う、と。

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